2023年03月のブログ記事一覧Blog
アレルゲン免疫療法について
アレルギー性鼻炎の薬物治療は大きく二つにわかれます
①症状を一時的に抑えるもの
ヒスタミンH1受容体拮抗薬(H1-receptor antagonist, H1RA)
鼻噴霧用ステロイド薬
ロイコトリエン受容体拮抗剤(leukotriene receptor antagonist, LTRA)
プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2受容体拮抗薬
Th2サイトカイン阻害薬
血管収縮薬(点鼻は重症以上)
抗IgE抗体(重症以上)
②アレルギーを起こしにくい体質にするもの
アレルゲン免疫療法
薬物療法の中で治癒が目指せる唯一の方法です。
ただし、他の薬物療法が即効性を期待できるのに対し、アレルゲン免疫療法は3~5年を目安に年単位の継続が必要です。
今回はアレルゲン免疫療法について紹介します
●アレルゲン免疫療法とは
アレルギー性鼻炎(含花粉症)は、アレルゲン(または抗原)と呼ばれる原因物質(ダニ、スギ花粉など)によって引き起こされます。
アレルゲン免疫療法は、アレルギーの原因となっているアレルゲンを少量から、徐々に量を増やし繰り返し投与することにより、体をアレルゲンに慣らし、症状を和らげる治療法です。
根本的な体質改善(長期寛解・治癒)も期待されます。
方法は2つあります。
皮下免疫療法(subcutaneous immunotherapy: SCIT)スキット
SCITはアレルゲンの皮下注射を繰り返し行う方法で、スギ花粉症、およびダニアレルギー性鼻炎とアトピー型喘息に適応があります。
舌下免疫療法(sublingual immunotherapy: SLIT)スリット
SLITはアレルゲンを舌の下(舌下)に投与する方法で、スギ花粉症、およびダニアレルギー性鼻炎に適応があります。
従来はSCITが行われていましたが、アナフィラキシーショックなどの全身性副反応や、頻回の通院による負担の軽減のため SLITが普及してきています。
●治療の流れ
まず、問診と血液検査または皮膚テストで患者さんのアレルギーの原因(アレルゲン)を確かめます。
SCITは薄く希釈したエキスを少量から注射していきます。
はじめは週1回、少しずつ量を多く、濃度を高くしていき、適当な濃度になったら間隔をあけ、2週に1回から最終的には月1回にして、その濃度(維持量)を続けていきます。
効果がでるまでに約3か月はかかります。
効果を維持するために最低2年、できれば3年以上月1回の注射を続けます。
SLITは1日1回舌下に薬剤を投与します。
投与後は1分間または2分間、あるいは完全に溶解するまで舌下に保持し、その後飲み込みます。
投与後5分間はうがいや飲食を控えます。
投与前および投与後2時間は入浴や飲酒・激しい運動を避けます。
投与する薬剤(アレルゲン)の量は徐々に増量します
(スギ花粉症なら1または2週間、ダニアレルギー性鼻炎なら3日から1週間など)
副作用への対応を考慮し、初回投与は医療機関内で行い、その後30分間は医師の監視下で待機します
翌日(2日目)からは、自宅で患者さんが投与しますが、日中や家族のいる場所での投与が推奨されます
治療期間は3〜5年が推奨されます。
●有効性について
アレルゲン免疫療法では、8割前後の患者さんで有効性が認められています。
3年以上治療を続けられた患者さん(有効例)では、治療終了後4〜5年経過した時点での追跡調査で80〜90%の効果の持続が認められています。
飲み薬や点鼻薬、点眼薬はあくまで一時的に症状を抑えるだけで、根本的な治療ではありません。
根本的な体質改善(長期寛解・治癒)を望む患者さんには、積極的にお薦めしています。
●安全性について
副作用としては投与部位である口腔内の腫れ、痒みなどが最も多くみられます。
アナフィラキシーなど重篤な症状が起こる可能性もあります。
特に、投与後少なくとも30分間、投与開始初期のおよそ1か月などは注意が必要です。
気管支喘息や口腔内に傷や炎症のある方、他の疾患で治療を受けている方、妊婦・授乳婦の方などでは、治療を受けられないことがあります。
●注意点
症状不安定期、またはスギ花粉症の場合には花粉飛散時期には開始できません
少なくとも3年間は毎日連続して投与します
投与する際には、1分間、舌下にアレルゲン錠を保持が必要です
●治療スケジュールと費用の目安について(3割負担の方)
確定診断のための血液検査 4000~5000円
アレルゲン免疫療法開始後、1週間は少ない量で開始し、大きな副作用がなければ増量し維持します
①初回 1週間分処方
②2回目 増量して2週間分処方
③3回目以降 4週間分処方
スギ花粉症SLITの場合 診察料と薬代の合計 約1800-2000円
まとめ
アレルゲン免疫療法はアレルギーが治癒できる可能性がある唯一の方法です
ただし即効性はなく、3~5年を目安に年単位の継続が必要です。
根本的な体質改善(長期寛解・治癒)を望む方には積極的にお勧めします。
管理のしやすいSLITが普及してきています
アレルゲン免疫療法の手引き - 日本アレルギー学会 2022/1/20
鼻アレルギー診療ガイドライン2020 改定第9版 日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会
これからの医療機関におけるコロナウイルス対策について
第118回 新型コロナウイルス感染症対策 アドバイザリーボード(令和5年3月8日)が開催されました。
感染症上の類型変更を見据えた、今後の感染対策についての提言がありました。
医療機関と高齢者施設における新型コロナウイルス対策についての見解
今回はこちらの内容から医療機関におけるコロナウイルス対策について抜粋します
感染対策の基本
手指衛生などの標準予防策、マスクの適切な着用、十分な換気
重症化リスクの高い人たちが集まる医療機関や高齢者施設では感染対策を続ける
重症化リスクの高い方々はワクチン接種を最新の状態に保つ
Q 医療機関や高齢者施設において、日常的にマスクを着用する必要がありますか?
→ 重症化リスクの高い方々が集まる場所では、サージカルマスクを着用することが望ましい
個室や個人のベッド上、利用者の出入りの少ない施設ではマスクを外しても可
医療・介護従事者は常にマスクを着用して業務にあたる
認知症や基礎疾患の状態などマスク着用困難な場合はマスク着用を強要しない
Q 医療機関や高齢者施設におけるエアロゾル感染対策はどのように行いますか?
→ できるだけ室内での密集を避けることと、効果的な換気を実施する
施設内の換気は機械換気を常時運転し、CO2 モニターを用 いて1000ppm 以下とする
十分な換気効果が得られにくい空間では空気清浄機を活用する
Q 感染者の診療やケアにあたる際には、どのような感染対策が求められますか?
→ エアロゾル曝露がある状況(検体採取など)では N95 マスクを着用
外来診療など短時間の接触で室内換気が良好な状況では、双方がサージカルマスクを着用
診療者はフェイスシールドなどにより目を保護する
身体密着がなければガウンやエプロンなどは不要
使い捨ての手袋を使用することが望ましいが、速やかにアルコール消毒や手洗いができれば不要
Q 発熱患者の外来診療については、他の外来患者と分ける必要がありますか?
→ 可能な範囲で分離する
発熱患者に限らず、診療所内ではサージカルマスクを着用を促す
まとめ
リスクが低い状況においてはCOVID-19対策が緩められました
エアロゾル発生がない状況であれば、双方サージカルマスクで可となります
未発症のCOVID-19の方もおられるため、クリニック内ではマスク着用をお願いします
第118回(令和5年3月8日) 新型コロナウイルス感染症対策 アドバイザリーボード 資料3-10
厚生労働省
アレルギー性鼻炎について
アレルギー性鼻炎はなんらかの抗原(アレルゲン)による即時型(I型)アレルギー疾患です
通年性アレルギー性鼻炎 と 季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)に分類されます
通年性アレルギー性鼻炎 → ダニ、真菌、ペットの毛など がアレルゲン
季節性アレルギー性鼻炎(花粉症) → スギ花粉など がアレルゲン
アレルギー性鼻炎の症状はくしゃみ、鼻漏、鼻閉、鼻の痒みです。
鼻閉などによる頭痛、眼症状(痒み、充血、流涙)、皮膚の痒み、咽頭の痒み
咳喘息・喘息の悪化、睡眠障害、全身倦怠感など さまざまな症状を伴います。
アレルギー性鼻炎の病態は以下のように考えられています
アレルゲンが体内に入ると、免疫反応によりアレルゲンに対する 特異的IgE が産生されます。
特異的IgEがマスト細胞の表面にくっつくことで、その物質に対する免疫ができます(感作といいます)
感作は次にアレルゲンが入って来た時に効率的に除去する仕組みです
IgEを作りやすい体質(アレルギー素因)があると、免疫反応が強くおこりアレルギーを発症しやすくなります。
アレルギー性鼻炎は問診と検査を合わせ診断します。
・問診
くしゃみ、鼻漏、鼻閉、鼻の痒みなどの典型的鼻症状
眼の痒み・充血などの眼症状、咳、喘鳴、呼吸困難などの喘息症状など があることもあります
・検査
血液検査(好酸球数、特異的IgE抗体)、皮膚テスト、鼻汁好酸球検査など
鼻内所見 鼻粘膜が白く腫脹(スギ花粉症の初期は発赤)、水様性(さらさらした)鼻汁
鑑別として 非アレルギー性鼻炎 と 感染性鼻炎 があります
・非アレルギー性鼻炎
本態性鼻炎(血管運動性鼻炎)→ 鼻汁好酸球 陰性 皮膚テスト、血清IgE抗体検査 陰性
好酸球増多性鼻炎 → 鼻汁好酸球 陽性 皮膚テスト、血清IgE抗体検査 陰性
・感染性鼻炎
急性鼻炎(いわゆる鼻かぜ)
→ 初期にはくしゃみや水様性鼻漏、鼻閉がありますが、数日で鼻漏が粘性になり治癒します
副鼻腔炎 → くしゃみがなく、粘性(どろどろした)・粘膿性鼻漏が主体です
治療
・薬物治療
ヒスタミンH1受容体拮抗薬(H1-receptor antagonist, H1RA)
鼻噴霧用ステロイド薬
ロイコトリエン受容体拮抗剤(leukotriene receptor antagonist, LTRA)
プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2受容体拮抗薬
Th2サイトカイン阻害薬
血管収縮薬(点鼻は重症以上)
抗IgE抗体(重症以上)
アレルゲン免疫療法
他に手術療法があります
一般的には以下の治療方針です
くしゃみ・鼻漏(鼻水)→ H1RA、鼻噴霧用ステロイド薬
鼻閉型(はなづまり)→ 鼻噴霧用ステロイド薬、LTRA、H1RA・血管収縮薬配合剤
薬物療法は症状を改善させますが、基本的には対症療法のため投与中止で再燃します
アレルゲン免疫療法は寛解・治癒できる可能性があります
アレルゲンを少量ずつ投与することで体に慣れさせ、アレルギー反応を起こしにくくする治療です
ダニアレルギーとスギアレルギーで適応があります(適応条件があります)
手術療法は薬物治療に反応しない難治性アレルギー性鼻炎例で検討されます。
まとめ
花粉症は季節性アレルギー性鼻炎です
H1RA、ステロイド薬などの対症療法で症状は緩和されますが治癒はしません
アレルギー免疫療法は治癒できる可能性があります
引用文献
アレルゲン免疫療法の手引き - 日本アレルギー学会 2022/1/20
鼻アレルギー診療ガイドライン2020 改定第9版 日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会