アレルゲン免疫療法について
アレルギー性鼻炎の薬物治療は大きく二つにわかれます
①症状を一時的に抑えるもの
ヒスタミンH1受容体拮抗薬(H1-receptor antagonist, H1RA)
鼻噴霧用ステロイド薬
ロイコトリエン受容体拮抗剤(leukotriene receptor antagonist, LTRA)
プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2受容体拮抗薬
Th2サイトカイン阻害薬
血管収縮薬(点鼻は重症以上)
抗IgE抗体(重症以上)
②アレルギーを起こしにくい体質にするもの
アレルゲン免疫療法
薬物療法の中で治癒が目指せる唯一の方法です。
ただし、他の薬物療法が即効性を期待できるのに対し、アレルゲン免疫療法は3~5年を目安に年単位の継続が必要です。
今回はアレルゲン免疫療法について紹介します
●アレルゲン免疫療法とは
アレルギー性鼻炎(含花粉症)は、アレルゲン(または抗原)と呼ばれる原因物質(ダニ、スギ花粉など)によって引き起こされます。
アレルゲン免疫療法は、アレルギーの原因となっているアレルゲンを少量から、徐々に量を増やし繰り返し投与することにより、体をアレルゲンに慣らし、症状を和らげる治療法です。
根本的な体質改善(長期寛解・治癒)も期待されます。
方法は2つあります。
皮下免疫療法(subcutaneous immunotherapy: SCIT)スキット
SCITはアレルゲンの皮下注射を繰り返し行う方法で、スギ花粉症、およびダニアレルギー性鼻炎とアトピー型喘息に適応があります。
舌下免疫療法(sublingual immunotherapy: SLIT)スリット
SLITはアレルゲンを舌の下(舌下)に投与する方法で、スギ花粉症、およびダニアレルギー性鼻炎に適応があります。
従来はSCITが行われていましたが、アナフィラキシーショックなどの全身性副反応や、頻回の通院による負担の軽減のため SLITが普及してきています。
●治療の流れ
まず、問診と血液検査または皮膚テストで患者さんのアレルギーの原因(アレルゲン)を確かめます。
SCITは薄く希釈したエキスを少量から注射していきます。
はじめは週1回、少しずつ量を多く、濃度を高くしていき、適当な濃度になったら間隔をあけ、2週に1回から最終的には月1回にして、その濃度(維持量)を続けていきます。
効果がでるまでに約3か月はかかります。
効果を維持するために最低2年、できれば3年以上月1回の注射を続けます。
SLITは1日1回舌下に薬剤を投与します。
投与後は1分間または2分間、あるいは完全に溶解するまで舌下に保持し、その後飲み込みます。
投与後5分間はうがいや飲食を控えます。
投与前および投与後2時間は入浴や飲酒・激しい運動を避けます。
投与する薬剤(アレルゲン)の量は徐々に増量します
(スギ花粉症なら1または2週間、ダニアレルギー性鼻炎なら3日から1週間など)
副作用への対応を考慮し、初回投与は医療機関内で行い、その後30分間は医師の監視下で待機します
翌日(2日目)からは、自宅で患者さんが投与しますが、日中や家族のいる場所での投与が推奨されます
治療期間は3〜5年が推奨されます。
●有効性について
アレルゲン免疫療法では、8割前後の患者さんで有効性が認められています。
3年以上治療を続けられた患者さん(有効例)では、治療終了後4〜5年経過した時点での追跡調査で80〜90%の効果の持続が認められています。
飲み薬や点鼻薬、点眼薬はあくまで一時的に症状を抑えるだけで、根本的な治療ではありません。
根本的な体質改善(長期寛解・治癒)を望む患者さんには、積極的にお薦めしています。
●安全性について
副作用としては投与部位である口腔内の腫れ、痒みなどが最も多くみられます。
アナフィラキシーなど重篤な症状が起こる可能性もあります。
特に、投与後少なくとも30分間、投与開始初期のおよそ1か月などは注意が必要です。
気管支喘息や口腔内に傷や炎症のある方、他の疾患で治療を受けている方、妊婦・授乳婦の方などでは、治療を受けられないことがあります。
●注意点
症状不安定期、またはスギ花粉症の場合には花粉飛散時期には開始できません
少なくとも3年間は毎日連続して投与します
投与する際には、1分間、舌下にアレルゲン錠を保持が必要です
●治療スケジュールと費用の目安について(3割負担の方)
確定診断のための血液検査 4000~5000円
アレルゲン免疫療法開始後、1週間は少ない量で開始し、大きな副作用がなければ増量し維持します
①初回 1週間分処方
②2回目 増量して2週間分処方
③3回目以降 4週間分処方
スギ花粉症SLITの場合 診察料と薬代の合計 約1800-2000円
まとめ
アレルゲン免疫療法はアレルギーが治癒できる可能性がある唯一の方法です
ただし即効性はなく、3~5年を目安に年単位の継続が必要です。
根本的な体質改善(長期寛解・治癒)を望む方には積極的にお勧めします。
管理のしやすいSLITが普及してきています
アレルゲン免疫療法の手引き - 日本アレルギー学会 2022/1/20
鼻アレルギー診療ガイドライン2020 改定第9版 日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会
アレルギー性鼻炎について
アレルギー性鼻炎はなんらかの抗原(アレルゲン)による即時型(I型)アレルギー疾患です
通年性アレルギー性鼻炎 と 季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)に分類されます
通年性アレルギー性鼻炎 → ダニ、真菌、ペットの毛など がアレルゲン
季節性アレルギー性鼻炎(花粉症) → スギ花粉など がアレルゲン
アレルギー性鼻炎の症状はくしゃみ、鼻漏、鼻閉、鼻の痒みです。
鼻閉などによる頭痛、眼症状(痒み、充血、流涙)、皮膚の痒み、咽頭の痒み
咳喘息・喘息の悪化、睡眠障害、全身倦怠感など さまざまな症状を伴います。
アレルギー性鼻炎の病態は以下のように考えられています
アレルゲンが体内に入ると、免疫反応によりアレルゲンに対する 特異的IgE が産生されます。
特異的IgEがマスト細胞の表面にくっつくことで、その物質に対する免疫ができます(感作といいます)
感作は次にアレルゲンが入って来た時に効率的に除去する仕組みです
IgEを作りやすい体質(アレルギー素因)があると、免疫反応が強くおこりアレルギーを発症しやすくなります。
アレルギー性鼻炎は問診と検査を合わせ診断します。
・問診
くしゃみ、鼻漏、鼻閉、鼻の痒みなどの典型的鼻症状
眼の痒み・充血などの眼症状、咳、喘鳴、呼吸困難などの喘息症状など があることもあります
・検査
血液検査(好酸球数、特異的IgE抗体)、皮膚テスト、鼻汁好酸球検査など
鼻内所見 鼻粘膜が白く腫脹(スギ花粉症の初期は発赤)、水様性(さらさらした)鼻汁
鑑別として 非アレルギー性鼻炎 と 感染性鼻炎 があります
・非アレルギー性鼻炎
本態性鼻炎(血管運動性鼻炎)→ 鼻汁好酸球 陰性 皮膚テスト、血清IgE抗体検査 陰性
好酸球増多性鼻炎 → 鼻汁好酸球 陽性 皮膚テスト、血清IgE抗体検査 陰性
・感染性鼻炎
急性鼻炎(いわゆる鼻かぜ)
→ 初期にはくしゃみや水様性鼻漏、鼻閉がありますが、数日で鼻漏が粘性になり治癒します
副鼻腔炎 → くしゃみがなく、粘性(どろどろした)・粘膿性鼻漏が主体です
治療
・薬物治療
ヒスタミンH1受容体拮抗薬(H1-receptor antagonist, H1RA)
鼻噴霧用ステロイド薬
ロイコトリエン受容体拮抗剤(leukotriene receptor antagonist, LTRA)
プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2受容体拮抗薬
Th2サイトカイン阻害薬
血管収縮薬(点鼻は重症以上)
抗IgE抗体(重症以上)
アレルゲン免疫療法
他に手術療法があります
一般的には以下の治療方針です
くしゃみ・鼻漏(鼻水)→ H1RA、鼻噴霧用ステロイド薬
鼻閉型(はなづまり)→ 鼻噴霧用ステロイド薬、LTRA、H1RA・血管収縮薬配合剤
薬物療法は症状を改善させますが、基本的には対症療法のため投与中止で再燃します
アレルゲン免疫療法は寛解・治癒できる可能性があります
アレルゲンを少量ずつ投与することで体に慣れさせ、アレルギー反応を起こしにくくする治療です
ダニアレルギーとスギアレルギーで適応があります(適応条件があります)
手術療法は薬物治療に反応しない難治性アレルギー性鼻炎例で検討されます。
まとめ
花粉症は季節性アレルギー性鼻炎です
H1RA、ステロイド薬などの対症療法で症状は緩和されますが治癒はしません
アレルギー免疫療法は治癒できる可能性があります
引用文献
アレルゲン免疫療法の手引き - 日本アレルギー学会 2022/1/20
鼻アレルギー診療ガイドライン2020 改定第9版 日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会
アレルギーとは
アレルギー(allergy)とは
ギリシャ語の allos(変じた) と ergo(作用) に由来する用語です
本来生体の重要な防御機構である免疫反応が『変じて』
生体に有害な反応として『作用』している病的状態
つまり
免疫に何らかの異常がおき、体にとって悪さをしている
ことを指します。
からだは環境に存在するたくさんの感染症微生物をはじめとする外敵に囲まれています
その外敵をやっつけてからだを守る機能が免疫反応です。
免疫反応には 自然免疫 と 獲得免疫 の二つがあります。
〇自然免疫 → 入って来たすべての病原体などを排除する仕組み
白血球のうち、好中球、マクロファージ、樹状細胞などが担当します
かぜをひいたあと、自然に治るのは自然免疫の力です
〇獲得免疫 → 自然免疫からの情報を元に、特定の病原体がきたときに効率的に排除する仕組み
白血球のうち、リンパ球(T細胞、B細胞)が担当します
同じ病気にかかっても軽く済むか、発症しにくいのは獲得免疫の力です
獲得免疫はさらに 液性免疫 と 細胞性免疫 にわかれます
☆液性免疫
細胞外の異物に対して働きます
免疫グロブリン(抗体)をつくって特定の異物を排除します
免疫グロブリンはIgA、IgM、IgG、IgD、IgEの5種類があります
リンパ球(B細胞、ヘルパーT細胞)が担当します
☆細胞性免疫
細胞内に侵入した異物(感染など)に対して働きます
感染した細胞そのものを破壊して排除します
リンパ球(キラーT細胞)、NK細胞、マクロファージなどが担当します
このうち、アレルギーに直接関連するのは獲得免疫です。
アレルギーの病気はI~IV型の4つに分類されています
(V型までの5つに分類されることもありますが、V型はII型に含まれます)
I型アレルギー
抗原と抗体(IgE抗体)が反応し、即座に症状が出現します
即時型アレルギー(アナフィラキシー型)と呼ばれます
一般的なアレルギー疾患は、このI型アレルギーによる疾患を指しています。
アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、気管支喘息、じんましん、アトピー性皮膚炎、アナフィラキシーなど
II型アレルギー
細胞表面を抗原として抗体(IgG抗体やIgM抗体)が反応し、最終的に細胞そのものを破壊します
自己免疫性溶血性貧血、不適合輸血、免疫性血小板減少性紫斑病、Goodpasture症候群など
III型アレルギー
血液の中の成分(可溶性抗原)に対する抗体(IgG抗体やIgM抗体)により過剰な免疫複合体がつくられます
その結果、補体系(細胞を破壊する)を活性化し組織障害を起こします
自己免疫性疾患(関節リウマチ、SLEなど)、血清病、糸球体腎炎、過敏性肺炎など
IV型アレルギー
感作された(特定の抗原に反応する)T細胞による細胞性免疫型のアレルギーをおこします。
ツベルクリン反応、接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、移植拒絶反応など
まとめ
アレルギーは免疫の異常(過剰な反応)により起こります
抗原の部位、抗体の種類、免疫の種類でI~IV型の4つに分類されます
一般的なアレルギー疾患はI型を指します
治療は抗ヒスタミン剤、ステロイド剤、免疫抑制剤、生物製剤まで多岐にわたります
参考資料
アレルギー総合ガイドライン 2016, 2022
一般社団法人日本アレルギー学会