新型コロナ感染症(COVID-19)について ③治療
1 COVID-19の症状
従来はウイルス暴露から発症までの潜伏期は 約 5 日間(最長14日間) でしたが、
オミクロン株では、暴露から発症までの潜伏期は 2.9 日(99 % は曝露後10 日までに発症)
と短縮しています。
感染後に無症状のまま経過する人の割合は,20~40 %と考えられています。
患者発症時の主な症状は以下の通りです。
インフルエンザや普通のかぜと比較し、
鼻汁・鼻閉は少なく、嗅覚・味覚障害の多いことがCOVID-19 の特徴といわれてきましたが、
オミクロン株では、鼻汁・鼻閉,咽頭痛などの感冒様症状の頻度が増加し、嗅覚・味覚障害の頻度が減少した、と報告されています。
普通のかぜに近い症状になっています。
SARS-CoV-2 はまず鼻咽頭などの上気道に感染します。
大部分の方は発症から1 週間程度で治癒に向かいます。
一部の方では感染が下気道・肺まで進み、肺炎や酸欠を来し、重症化します。
重症化のリスク因子として、以下が知られています
重症化率は、第1波では8.2%でしたが、第5波では1.0%、オミクロンに置き換わった第6波は0.11%、第7波では0.03% まで低下しています。
ただし感染者数自体が増加しているため、過去と比較し死亡者数は増加しています。
2 COVID-19の重症度
COVID-19の診断後は、まず重症度判定を行います。
重症度は 肺炎 と 呼吸不全 の状態で4つに分類します。
・肺炎も呼吸不全(酸欠)もない場合 軽症
・肺炎がある場合 中等症
呼吸不全がない 中等症 I
呼吸不全がある 中等症II
・集中治療室で治療が必要な場合 重症
症状には個人差があります。
高熱や強い咽頭痛があっても、肺炎 や 呼吸不全 がない場合は軽症と判定されます。
3 COVID-19の治療方針
以下に重症度別の治療方針をお示しします。
【軽 症】
〇 自然に軽快することが多いです。
〇 解熱薬や鎮咳薬などの対症療法を必要に応じて追加します。
〇 重症化リスク因子のある場合は、発症5日以内であれば抗ウイルス薬の適応があります。
〇 軽症と判断されても急速に低酸素血症(酸欠)が進行することがあります。
【中等症 以上】
〇 原則入院で経過をみます。(症状が軽い場合は外来でも可です)
〇 重症化リスク因子のある場合は、発症5 日以内であれば抗ウイルス薬を投与します。
〇 呼吸不全がある場合は免疫抑制・調節症薬を投与します。
4 薬剤の特徴
① 抗ウイルス薬
【レムデシビル(商品名:ベクルリー点滴静注用100 mg)】(RNA 合成酵素阻害薬)
対象 : 重症化リスクのある、軽症~中等症IIの方(重症例では効果が期待できない可能性が高いです)
効果 : 発症7日以内に治療開始で、軽症~中等症Iの入院と死亡リスクを87%減少
中等症IIの死亡リスクを13%減少
投与方法: 5日間 点滴 (原則入院で投与)
【モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオカプセル 200 mg)】(RNA 合成酵素阻害薬)
対象 : 重症化リスクのある、軽症~中等症Iの方
(重症化リスク)
61 歳以上、活動性の癌、慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患、肥満(BMI 30kg/m2 以上)、重篤な心疾患(心不全、冠動脈疾患又は心筋症)、糖尿病、 ダウン症 、 脳神経疾患(多発性硬化症、ハンチントン病、重症筋無力症等)、 コントロール不良の HIV 感染症及び AIDS、肝硬変等の重度の肝臓疾患、臓器移植、骨髄移植、幹細胞移植後
効果 : 発症5日以内に治療開始で、入院と死亡リスクを30%減少
投与方法: 18 歳以上の方に 1 日 2 回 5 日間 経口投与
【ニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッドパック )】(プロテアーゼ阻害薬)
対象 重症化リスクのある、軽症~中等症Iの方
(重症化リスク)
60 歳以上、BMI 25kg/m2 超、喫煙者、免疫抑制状態、慢性肺疾患(喘息はコントロール不良の方)、高血圧、心血管疾患(心筋梗塞、脳卒中、一過性脳虚血発作、心不全、不安定な狭心症、冠動脈バイパス術、経皮的冠動脈形成術、頚動脈内膜剥離術又は大動脈バイパス術の既往を有する)、糖尿病、活動性の癌、慢性腎臓病、神経発達障害(脳性麻痺、ダウン症候群等)又は医学的複雑性を付与するその他の疾患(遺伝性疾患、メタボリックシンドローム、重度の先天異常等)、医療技術への依存(持続陽圧呼吸療法等)
効果 : 発症5日以内に治療開始で、入院と死亡リスクを89%減少
投与方法: 12 歳以上かつ体重 40 kg 以上の小児、1 日 2 回、5 日間 経口投与
※ 併用禁忌・併用注意薬が多数あるため処方できる方に制限があります
【エンシトレルビル フマル酸(商品名:ゾコーバ錠)】(プロテアーゼ阻害薬)
対象 : 軽症~中等症Iの方
効果 : 発症から3日以内に治療開始で、 症状(鼻水/鼻づまり、喉の痛み、咳の呼吸器症状、熱っぽさ/発熱、倦怠感)の消失までの時間を約 24 時間短縮
投与方法: 12 歳以上の小児及び成人に 1日1回 5日間 経口投与
※ 高熱・強い咳症状・強い咽頭痛など、軽症でも臨床症状が強い方に処方を検討します
※ 併用禁忌・併用注意薬が多数あるため処方できる方に制限があります
② 中和抗体薬
オミクロン株が主流となり効果減弱の可能性が高いため、一般的に使用していません
③ 免疫抑制・調節薬
対象 : 中等症Ⅱ〜重症の方 原則入院で投与します
【デキサメタゾン】(ステロイド薬)
酸素が必要な中等症II以上で予後改善効果あり
投与方法: 6 mg 1 日1 回 10 日間まで(経口・経管・静注)
【バリシチニブ】(ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤)
レムデシビルと併用することで予後改善効果あり
投与方法: 4 mg 1 日1 回 最長14 日間(経口)
【トシリズマブ】(抗IL-6 受容体抗体)
ステロイド薬と併用することで予後改善効果あり
投与方法: 1 回8 mg/kg 点滴
5 妊婦さんに対する薬物療法
1)有益性投与(生命にかかわる状態など、どうしても必要な場合に投与)
レムデシビル、ニルマトレルビル/リトナビル、中和抗体薬、トシリズマブ
→ 妊婦中使用のデータは少ないです。
デキサメタゾン(ステロイド)
→ 胎盤通過性の低い(胎児へ影響の少ない)ステロイド剤
プレドニゾロン40 mg または ヒドロコルチゾン80 mgに置き換えて投与します
2)禁忌(投与できません)
バリシチニブ、モルヌピラビル
→ 動物実験では催奇形性や胎児毒性が報告されています。
5 小児に対する薬物療法
11歳未満では レムデシビル
12歳以上では レムデシビル、ニルマトレルビル/リトナビル、エンシトレルビル
の適応があります
ただし、2022/9月以降で小児の重症化率については 0.01%前後 と報告されています
一般的には対症療法のみで改善が見込めます
重症リスクがない場合は、基本的に抗ウイルス薬は不要と考えらえます
まとめ
COVID-19は大部分が軽症ですが、リスクが高い方の一部で重症化がみられます。
オミクロン株では重症化率が低下しましたが、感染者数は増加しています。
重症化リスクが高い方に早期に抗ウイルス薬が推奨されます
(抗ウイルス薬が処方できるかどうかは、重症化リスクの有無で決まります)
外来診療では
重症化リスクの高い方の重症化抑制に対し モルヌピラビル、ニルマトレルビル/リトナビル
重症化リスクの低い方の症状軽減に対し エンシトレルビル が選択可能です。
※基本的には自然治癒が見込めますので、リスクの低い場合は対症療法で十分と考えられます。
引用文献
厚生労働省 新型コロナウイルス感染症 診療の手引き 第8.2版 (2022年10月5日)
COVID-19に対する薬物治療の考え方 第15版(2022年11月22日)
第112回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード (令和4年12月28日) 資料
『現在の感染・療養状況等について 大阪府健康医療部』 より